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しゅんとの思い出に浸ることは、とてもたのしくてで哀しい。

なぜなら、とてもとてもしあわせだから。
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バレンタインにこんなことを想って泣くなんて、おかしいね。
しゅんのアヒル口のマネ。
高い草を軽々と飛び越えた跳躍力。
碑文谷公園の犬が眠るベンチに真似をして寝転がる姿。
雨上がりの夜、おんぶしてもらって歩いた公園。
過呼吸で歩けなくなって、走って助けに来た高架下。
部屋の中、高い高いをしてくれる無邪気な笑顔。
ベッドのはじっこで本を読むひざこぞう。
赤と黒のチェックのハーフパンツ。
ヘインズのティーシャツとぼろぼろのジーンズ。
大切にしていたひものブーツ。
ドクロのピアスに気づいたショックな表情。
クロムハーツの革ベルトをにこにこして腕にはめているようす。
ビールいっぱいで紅潮するほほのライン。
かびんになるコロナビールの空瓶。
無口になるとさびしげになる瞳。
うなされてでてくる「香」という名前。
「いっしょに寝ていて、なにも感じないとでも想っているの?」と聞いたすこし怒った口調。
小説家になるんだ、と強がったあの日の顔。
携帯電話の耳元に響いた「カナとこんなふうにまだ付き合えるなんて想わなかった」。
すごく怒ってリングをゴミ箱に投げつけたときの衝動。
サイズの合わない指輪をペンチで曲げる指先。
プリングルス2枚で作るアヒルの口。
火星田マチコの歌を歌ううれしそうな顔と声。
マンガを読むときの「なのです」の言い方。
延々と歩いた成城と砧の街。
目に浮かぶような外人さんだと思って手を振った少女の話。
弟のことを話す両親への憎しみ。



すべては過ぎ去ったこと。
過去とは、過ぎ去ると書く。
かなしいよ。
先輩で、スケボー通勤の人がいるんだ、としゅんはいった。
なんでなの? と聞くと、
歩くのがかったるいんだって、と笑っていった。

いまでも学芸大学でスケボーの人を見るたび
それを思い出す。
あのとき、わたしは喫茶店で本を読んでいた。
人と接するのが怖くて、働くこともできなかった。
酒屋で働くしゅんとメールをしていて
冗談めいて他の人と付き合うなんてことも考えていたよ、
なんてメールをした。
それを見たしゅんは蒼い顔をして喫茶店まで走ってきた。
いくら冗談だよといっても、無理だった。
彼を傷つけたけれど、彼の愛を知ってわたしはとても
とてもとてもとてもうれしかったんだ。
残酷な話。
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